―「個別支援」一人ひとりに合わせたサポート―
障害のある方が地域で自分らしく暮らしたり、働いたりするためには、画一的なサポートやトレーニングでは不十分です。障害の内容や程度、障害特性、生活のリズム、得意・不得意、希望する将来像は人によってまったく異なるからです。
たとえば、「人前で話すのが苦手」「朝の準備に時間がかかる」「集中力が続きにくい」など、困りごとは人それぞれです。本人の特性を理解し、その人に合ったやり方・ペースで支援を行う、個別支援が大切なのです。
様々な福祉サービスにおいて、そうした一人ひとりの違いを踏まえて、その人に合わせた個別支援が行われています。
1.個別支援とは
障害は種類や程度、環境等によって、必要なサポートが大きく変わります。
そのため、一般的な福祉施設では下記のような流れで支援のためのプランを作ります。
・本人の特性や生活状況をヒアリング
・本人が望む生活・働き方の目標を共有
・目標達成に必要な手段を検討
・支援計画(個別支援計画)を作成
・計画を定期的に見直し、必要に応じて修正
画一的に全員に同じサポートを提供しても、本人にマッチせず、成果が出ないことが多々ありますので、上記のような柔軟なサポートが必要です。
以下に、こういった個別支援を行っている4つの福祉サービスをご紹介します。
2.自立訓練
生活スキルを整え、自分らしく暮らすための支援
自立訓練は、障害のある方が「地域で自分の力で暮らせるようになること」を目指す訓練系のサービスです。利用期間はおおむね2年間です。日常生活に必要なスキルを少しずつ身につけていきます。
たとえば、
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朝起きて支度を整える
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食事を自分で準備する
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お金の使い方を覚える
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交通機関を使って移動する
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他人との関わり方を練習する
といった、生活の基礎となる部分をサポートします。
同じ「自立」といっても、ゴールは人によって異なります。
「家族と一緒に暮らしながら少しずつ家事をできるようになりたい人」もいれば、「一人暮らしを始めたい人」もいます。支援スタッフは、本人や家族と面談を行いながら、一人ひとりの目標を設定し、支援計画を立てます。
3.計画相談支援
生活の全体像を見渡し、最適な支援計画を立てるしくみ
様々は障害福祉サービスを利用するうえで中心的な役割を果たすのが計画相談支援です。
計画相談支援を担当するのは、「相談支援専門員」と呼ばれる専門職です。専門員は、本人や家族との面談を通じて、生活全体の課題や希望を丁寧に聞き取り、どんな支援をどう組み合わせるかを一緒に考えます。
たとえば――
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日中は就労移行支援を利用して働く練習をしたい
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生活リズムを整えるために、自立訓練も利用したい
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将来的には一人暮らしを目指したい
といった希望をもとに、複数のサービスを組み合わせながら、実現可能な計画を立てていきます。
さらに、定期的にモニタリングを行い、「支援内容が本人に合っているか」「新たな課題が出ていないか」を確認しながら、計画を見直していきます。
4.就労移行支援
一般企業での就職を目指すための訓練と個別サポート
就労移行支援は、障害のある方が一般企業で働くことを目指して利用する福祉サービスです(対象は原則18歳以上65歳未満)。
通所による訓練や実習、就職活動のサポートを通して、職業スキルと働く力を育てていきます。
具体的な支援内容は次のようなものです。
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ビジネスマナー、パソコン操作などの職業訓練
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企業での職場実習
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履歴書作成、面接練習などの就職活動のサポート
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就職後の定着支援(職場訪問や面談)
就労移行支援事業所では、利用開始時に個別支援計画を作成します。これは「利用者の方がどんな仕事を目指すのか」「どんなトレーニングが必要か」「どのくらいのペースで訓練を進めるか」を整理したものです。
たとえば、同じ「事務職を目指す」人でも、
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タイピングが苦手な人は、パソコンの練習を重点的に
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コミュニケーションが不安な人は、コミュニケーションプログラムで練習を
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生活リズムに課題がある人は、日々の通所をしっかりサポート
といったように、支援の内容と進め方を調整します。
これが個別支援=一人ひとりに合わせた支援の具体的な形です。
また、就職後も企業との連携を取りながら、安定して働けるようフォローが続きます。単に「就職できた」で終わらせず、働き続けるための継続的なサポートを行う点も特徴です。
【就労移行支援事業所の利用イメージ】
9:55~10:00 朝礼
10:00~10:50 個別訓練
10:50~11:00 休憩
11:00~11:50 グループワーク
11:50~13:00 昼休憩
13:00~13:50 個別訓練
13:50~14:00 休憩
14:00~14:50 スタッフとの面談
14:50~15:00 終礼
5.就労継続支援A型・B型
働く形を選べる2つの支援サービス
すぐに一般企業で働くのは難しいという場合には、就労継続支援A型・B型という選択肢もあります。どちらも働く機会を提供し、仕事を通じてスキルや生活リズムを整えていくサービスです。
●A型:雇用契約のもとで働く
就労継続支援A型では、利用者と事業所の間で雇用契約を結び、最低賃金以上の給与が支払われます。
仕事内容は、軽作業・製造・事務補助・清掃などさまざま。職員が職場環境を整え、サポートを受けながら働くことが可能で、基本的な労働習慣を身につけることができます。
A型は、勤務時間を守れる程度に体調が整っており、将来的に一般就労を目指したい方に向いています。
●B型:雇用契約を結ばず、無理のないペースで働く
就労継続支援B型は雇用契約を結ばず、体調や生活リズムに合わせて自分のペースで働ける福祉サービスです。
体力的な負担が大きい、長時間勤務が難しい、という方でも安心して利用できます。
作業内容は、パンやお菓子の製造、手工芸品の制作、データ入力、清掃など多岐にわたります。工賃が生産活動の成果に応じて支払われます。
このように、A型・B型はどちらも「働くことを通じた支援」を行いますが、契約形態が異なります。
【就労継続支援A型・B型の事業所の利用イメージ】
9:55~10:00 朝礼
10:00~10:50 業務・作業
10:50~11:00 休憩
11:00~11:50 業務・作業
11:50~13:00 昼休憩
13:00~13:50 業務・作業
13:50~14:00 休憩
14:00~14:50 業務・作業
14:50~15:00 終礼
6.就労移行支援事業所における個別支援の実際
一人ひとりの可能性を引き出すサポート
就労移行支援事業所では、利用者さん一人ひとりに個別の支援計画を立て、定期的に見直します。
計画には、「短期目標」と「長期目標」が設定され、進捗に応じて内容を調整していくのが特徴です。
このように、画一的な訓練メニューではなく、「その人にとって意味のある練習」を組み立てるのが就労移行支援事業所におけるサポートの基本姿勢です。
【就労移行支援事業所での個別支援の例】
① 個々の特性に合わせた作業トレーニングの調整
同じ「PC作業」でも、
・タイピングが苦手な人には基礎練習から
・マルチタスクが苦手な人には作業を細分化
など、作業内容・量・難易度を利用者ごとに変える。
② 認知特性に基づくコミュニケーション支援
口頭の指示が苦手な人には視覚的な説明(図や箇条書き)を多めに、
指示を忘れてしまうことの多い人にはリマインダーを活用するなど、
理解しやすい伝え方を個別に工夫する。
③ 体調の波を踏まえた通所ペースの設定
体調管理に不安がある場合、週3日の通所、体調が安定しており学習や就職活動を集中的に進めたい場合は週5日の通所など、無理なく続けられるスケジュールを立てる。
④ 就職希望業種に合わせたスキルトレーニング
一般事務を希望する人にはExcel・Word中心、接客を希望する人にはロールプレイ中心など、就職の方向性に合わせて訓練内容を変える。
⑤ 本人の困りごとに応じた環境調整
集中しづらい人には静かな席を用意、刺激に敏感な人には間仕切りを設置、疲れやすい人には休憩タイミングを細かめに設定など、その人が過ごしやすい環境を整える。
まとめ
個別支援は、「その人の特性を理解し、最適な方法でサポートする」という、障害福祉の根幹にある考え方です。
自立訓練や計画相談支援、就労系サービスなど、どの制度にも共通して、一人ひとりに合わせた計画を立てるというプロセスがあります。
「福祉サービスを利用したいけど、決まりきった作業をさせられて、何の役にも立たないんじゃないか?」と不安に思っている方。
そんなことはありませんので、いちど相談にいらしてくださいね♪



