障害者就労移行支援事業所ソース堺東・三国ヶ丘でトレーニングを行い、無事に就職が決まった利用者さんより、このような相談をよくいただきます。就職活動は内定をもらうことがゴールのように感じられがちですが、実は「就職してから」こそが本当のスタートなのです。
新しい職場、知らない人たち、覚えるべき業務。これらは誰にとっても大きなストレス要因ですが、障害特性によってはその負荷が何倍にも感じられ、働きはじめてすぐに「もう無理かもしれない」と自信を失ってしまう方も少なくありません。
しかし、そこで諦めてしまうのはまだ早いかもしれません。 特に「障害者雇用」という枠組みにおいては、つまづきやすいポイントへの対策や、企業側との調整によって、驚くほど働きやすくなるケースが多いからです。
本記事では、大阪府堺市で数多くの障害者就労・定着をサポートしてきた就労移行支援事業所の視点から、「仕事をはじめるときにつまづきやすいポイント」と、それを乗り越えるための具体的な対策について徹底解説します。
1. 障害者雇用の定着率が低いのはなぜ?“理想と現実のギャップ”が離職を生む
せっかく厳しい就職活動を乗り越えて採用されたのに、数ヶ月で離職してしまう。これは決して珍しいことではありません。
就職後1年時点での定着率は障害種別によって差はあるものの、特に精神障害のある方では約50%を下回るという結果も出ています。
早期離職の最大の要因は、能力不足ではありません。多くの場合は、「自分の想定していた働き方」と「実際の職場環境」のズレにあります。
2. 障害を持っている人が仕事でつまづきやすいポイントと対策
ここからは、就労現場で特によく見られるつまづきポイントと、その考え方・対策について深掘りします。
ポイント①:人間関係・コミュニケーション
〜「しんどい」からといって、すぐに辞めるのはもったいない!〜
仕事をする上で、最も多くの人が悩み、つまづくのが「人間関係」や「コミュニケーション」です。
- 「上司の指示の意図が汲み取れない」
- 「報告・連絡・相談(報連相)のタイミングが掴めない」
- 「休憩時間の雑談に入れず、孤立感を感じる」
発達障害(ADHD、ASDなど)の特性がある場合、暗黙の了解や空気を読むことが求められる場面で強いストレスを感じることがあります。しかし、ここで強調しておきたい大切な事実があります。
それは、「知り合ったばかりの人たちと仕事をするのだから、多かれ少なかれコミュニケーションの問題が起こるのは当たり前のこと」だということです。
【対策:企業と話し合いを重ねて適切なコミュニケーションの方法を探る】
会社で一緒に仕事をする人たちは、あなたのことをまだよく知らない他人です。そして、あなたも相手のことをよく知りません。最初からストレスなく連携して仕事ができることなどほとんどないのです。 多くの人が、この初期段階の「居心地の悪さ」や「伝わりにくさ」に耐えられず、「やっぱり自分には無理だ」「人間関係がしんどい」と早急に退職を決断してしまいます。
でも、それは本当にもったいないことです。
なぜなら、障害者雇用は「会社と相談を重ねることで、コミュニケーションの問題を改善できる雇用形態」だからです。企業側も試行錯誤し、「この方にはどのような配慮が必要か」「どう伝えればスムーズに業務が進むか」を理解しようとしています。
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「『適当に』ではなく、具体的な数値で指示を出してほしい」
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「口頭だけでなく、メモやチャットで指示を残してほしい」
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「挨拶はするが、休憩時間は一人で静かに過ごしたい」
こうした要望を出し、自分と企業の認識のズレを調整していくことで、入社当初は「しんどい」と感じていた人間関係が劇的に改善するケースが多々あります。 コミュニケーションの悩みは「辞める理由」ではなく、「働きやすい環境を作るための相談のきっかけ」と捉えてみましょう。
ポイント②:体力不足・生活リズムの乱れ
働きはじめは、想像以上にエネルギーを消耗します。「毎朝決まった時間に起きる」「電車で通勤する」「8時間職場にいる」。これだけで精一杯なのが普通です。
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睡眠障害: 疲れと緊張で夜眠れず、朝起きられない。遅刻が増えて自己嫌悪に陥る。
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過集中と疲労: 業務に没頭しすぎて休憩を忘れ、帰宅後に動けなくなる。
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服薬管理の乱れ: 忙しさで通院や服薬が疎かになり、症状が再発する。
特に精神障害のある方は、季節の変わり目や気圧の変化、職場の環境変化に敏感です。自分でも気づかないうちに疲労が蓄積し、ある日突然「会社に行けない」状態になってしまうことがあります。
【対策:スモールステップと相談する勇気】 最初の3ヶ月は、「仕事の成果」よりも「休まず通うこと」を最優先目標にしましょう。 職場では8割の力で働き、残りの力は帰宅後の休息のために残しておくイメージです。体力の限界に近いような業務内容である場合には、努力よりも相談が肝心です。企業は長く働き続けてくれる人材を求めていますので、正直に体力について相談すれば何らかの対処法を講じてくれるはずです。調子が落ちる前に相談すれば、早めに休息をとるなどの対処が可能になります。
ポイント③:ストレス管理・メンタル面
仕事を続けるうえで、見落とされがちなのが「ストレスの溜まり方」です。
特に発達障害や精神疾患のある方は、職場での小さな負担が積み重なり、ある日突然「もう無理だ」と限界が来てしまうことがあります。
- 失敗したことを何日も引きずってしまう
- 周囲が忙しそうだと声をかけられなくなる
- ちょっとした注意を「責められた」と感じてしまう
- 仕事以外の時間もずっと職場のことを考えてしまう
こうしたメンタル面の負荷は、誰にでも起こるものです。しかし、障害特性がある場合は「気持ちの切り替え」や「ストレスの自己管理」が難しいケースもあります。
そこで重要なのは、「一人で抱え込まない習慣」を身につけることです。
【対策:ストレスが“小さいうち”に対処する】
ストレスは、大きくなる前に気付ければ対処ができます。
- 毎週1回、業務で困っている点をメモして整理する
- モヤっとしたら24時間以内に相談する(上司・支援機関・相談員)
- 責任の境界線を意識する(できなかった=自分の価値ではない)
- 職場では“完璧”ではなく“できる範囲”を目指す
- 精神的に落ち込む前に、早めにSOSを出す。これは弱さではなく、長く働き続けるための「技術」です。
支援機関(就労移行・定着支援)を利用している場合、企業には伝えにくい内容でも、第三者を介せば伝わりやすくなることも多くあります。
ストレス管理は、本人だけの努力ではなく、「本人・職場・支援者の三者」で取り組むものだと考え、協力を仰ぎましょう。
ポイント④:スキルや経験不足の不安
働きはじめの頃は業務をこなすのに時間がかかったり、難しく感じる仕事がたくさんあります。
しかし、ここで忘れてほしくないことがあります。
企業は、あなたを即戦力として採用しているわけではないということです。
多くの場合、企業は「この方なら成長できる」「時間をかけて教えれば大丈夫」と期待して採用しています。
つまり、最初から完璧にできる必要はまったくありません。
【対策:段階的に仕事を覚えていく・できるようになる】
スキルは「できることを積み重ねる」ことで必ず向上していきます。
- 作業手順を細かく分解して覚える
- 初めての仕事は、必ず「見本」「手順書」「確認方法」をセットで確認する
- 1日1つ、「昨日よりできたこと」を記録する
- ミスしたら、“原因”と“次の改善策”をシンプルに整理する
など、できることをひとつずつ積み重ねれば、必ずスキルは向上します。
コツコツと経験を積んでいきましょう。
3. 法律を味方に!安心してお願いできる合理的配慮
障害者雇用促進法の改正によって、企業は障害を持つ従業員に対し「合理的配慮」をおこなうことが義務になりました。
これは “障害がある人が働くうえで困らないように、必要な調整を企業にお願いできる” 正当な権利 です。
合理的配慮とは何か
「合理的配慮」とは、障害のある人が働くうえで直面する困りごとや不利な状況を取り除くために、企業が行う調整やサポートのことです。
- 本人の状況・特性・困りごとをヒアリングする
- 業務内容や環境、指示方法などについて調整を検討する
- 過度な負担にならない範囲で、合理的な範囲の配慮を実施する
など、本人と企業が話し合いながら、働きやすい環境を一緒につくるというのが合理的配慮の基本です。
働くうえでの要望を伝えることは決して「わがまま」でも「甘え」でもありません。
あなたが自分の力をきちんと発揮して会社に貢献するために必要なことなのです。
合理的配慮の例:環境や仕事での工夫
たとえば、次のような工夫が合理的配慮に当たります。
〈環境の工夫〉
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環境音がつらい人のためにイヤーマフの使用を認めてもらう
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人があまり通らない席に変えてもらう など
〈仕事のやり方の工夫〉
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マニュアルにふりがなをつけてもらう
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図やイラストを使って説明してもらう
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仕事量を急に増やさず、段階的に調整してもらう など
こうしたお願いを、一人で企業に伝えることに気後れを感じるかもしれません。
しかし、後ほど紹介する 支援機関を頼れば、あなたと一緒に調整を手伝ってくれる ので、安心して進めることができます。
4. 一人で抱え込まないで!定着支援を活用
トラブルの渦中にいる時、自分一人で冷静に会社と交渉したり、対策を講じたりするのは非常に困難です。 そこで頼りになるのが、「就労定着支援」というサービスです。
就労移行支援事業所が提供する「定着支援」
障害を持っている人の就職をサポートする就労移行支援事業所では、多くの場合、就職が決まった後も最長3年間にわたり「就労定着支援」というサポートを提供しています。
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定期的な面談: 月に1回程度、支援員と面談し、職場の悩みや体調について相談ができます。
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企業とのパイプ役: 上司に直接言いにくい悩み(人間関係や配慮事項)を、支援員が間に入って企業側に伝えてくれます。
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企業側の担当者へのヒアリング: 障害を持っている当事者だけでなく、企業側のお悩みを伺い、当事者の方へ情報を共有することができます。
第三者が入ることのメリット
コミュニケーションの問題は、当事者同士が話すと感情的なって解決策を見つけにくくなることもあります。支援員という第三者が間に入ることで、建設的な話し合いが可能になります。 「辞めたい」と思った時、支援員に相談したら「実は会社側もあなたの対応に困っていて、どう話しかければいいか悩んでいた」という事実が判明し、双方の誤解が解けて働き続けられた、という事例は枚挙にいとまがありません。
地域には親身になって相談に乗ってくれる就労移行支援事業所が多くあります。仕事を探すために利用するだけでなく、その後の職場定着のことも考えて事業所を利用するのがお勧めです。
5. まとめ:焦らず、自分に合った働き方を見つけよう
障害を持っている方が仕事をはじめるさい、「人間関係」「体調」につまづくケースが多々あります。 特に人間関係の悩みは、初期段階では誰もが感じるものです。そこですぐに「辞める」というカードを切るのではなく、「会社と相談して環境を調整する」というプロセスを試してみてください。
そのプロセスこそが、「働きやすい職場」を作るための近道です。
大切なのは、決して一人で抱え込まないこと。
堺市で就職を目指している方、あるいは今、働き方に悩んでいる方は、ぜひ地域の「就労移行支援事業所」に相談してみてください。あなたの特性を理解し、就職から定着まで伴走してくれるパートナーが必ず見つかります。
仕事でのつまづきは、失敗ではありません。 そこから対策を立て、より良い環境を作っていくための大切なステップです。焦らず、私たちと一緒に一歩ずつ進んでいきましょう。



